【改正民法】錯誤による売買の取り消しとは?

【改正民法】錯誤による売買の取り消しとは?

【改正民法】錯誤による売買の取消とは?

Aは人づてに、『X土地の近くが再開発されるらしい』ということを聞きました。

 

再開発されれば当然地価が値上がりすると思い、X土地の所有者Bに500万円で売ってもらう契約を結びました。

 

ところが、契約した後で周りの人に確認してみると、どうも単なる噂であることがわかりました。そこで、Aは錯誤があったからと言って、契約の取消しをBに要求しました。

錯誤とは真意と事実の不一致

錯誤

契約は当事者双方が売買の意思表示をすることで成立します。

 

ただし、そこに「表示の錯誤」と「動機の錯誤」という重大な要素があると契約を取り消せます。

 

1.表示の錯誤

「表示の錯誤」とは表示したことが意思とは異なっていることです。

 

例えば今回の事例で、AがX土地を買うつもりなのに、間違ってY土地と伝えてしまった場合は表示の錯誤になります。

 

しかし、AはX土地を500万円で買おうと思い、Bから500万円でX土地を売ってもらったわけですから、表示の錯誤は存在しません。

 

2.動機の錯誤

今事例では、再開発により地価が値上がりすると思った購入動機に事実とは異なる錯誤があり、これを「動機の錯誤」と言います。

 

錯誤に対する規定

現行民法では契約(意思表示)が錯誤によって無効となるための要件として以下を挙げています。

  1. 法律行為の要素に錯誤があること
  2. 表意者に重大な過失がないこと

現行民法では条文上、動機の錯誤について明確な定めがありません。

 

従って、今事例の場合は表示の錯誤が無いため、契約の無効は認められません。

 

仮に、Aが購入の理由として、『X土地の近くが再開発されるから』とBに伝えてあると、動機も意思表示の内容になるため、契約の無効を主張できます。

 

一方、改正民法では動機の錯誤が明文化され、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」と定められました(95条1項二号)。

 

さらに、動機の錯誤があった場合に契約が取り消せるのは、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」に限るとの要件が付け加えられました(95条2項)。

 

なお、改正民法における表示の錯誤については、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」という表現で定められています(95条1項一号)。

 

民法第95条

意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一.意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二.表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2.前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

 

法律行為の要素の錯誤

現行民法では契約無効条件として、「要素に錯誤があること」と定められていますが、その内容については明らかにされておらず、常識的に錯誤がなければ意思表示をしなかっただろうということが判断材料になっています。

 

仮に、今事例の契約書に「5,000万円」となっていた場合、Aは500万円で買うと思っていたので、錯誤がなければ契約の意思表示をしなかったと判定されます。

 

改正民法では要素についての具体的な内容として、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」と定められました(95条1項)。

 

重大な過失

契約の無効において、現行民法では意思表示をした者に「重大な過失がないこと」が要件とされています。

 

この点は改正民法でも変わりませんが、改正民法では次の2つの例外が加わりました。
@今回の例で言うと、BがAに錯誤のあることを知っていたか、または、重大な過失によって知らなかった。
ABがAと同じ錯誤に陥っていた。
この例外が該当する場合は、Aに重大な過失があったとしても、契約を取り消すことができることになります。

 

民法第95条3項

錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一.相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二.相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

 

「重大な過失によって知らなかったとき」の例としては、購入者がオートマチック車専用の運転免許証を提示しているのに、ディーラーがマニュアル車を販売した時が該当します。

 

また、「相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき」も同様に、オートマチック車しか乗れないことを知っていながら、購入者もディーラーも一緒になってマニュアル車の売買契約を進めた場合です。

 

なお、重大な過失であるため、勘違いや不注意程度の軽微な過失は許されます。

 

錯誤が認められた場合の効果

現行民法では錯誤が認められると、意思表示は「無効」とされていましたが、改正民法では「取り消すことができる」となっています。

 

また、善意無過失の第三者には対抗できないとの定めが新たに設けられました。

 

民法第95条4項

第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

@無効の特徴

・誰が主張してもよい。
・主張するにあたって期間制限がない。
今事例でいえば、AとBがともに無効の主張ができます。ただ、実態としては、不利益を被る可能性の高い表意者を保護する形になっています。

 

A取消しの特徴

・取り消すことのできる人が限定されている。
・取消しの請求に期間制限がある。
取消しを主張できるのは表意者のみに限定され、主張できる期間も、表意者が錯誤だと気づき、取り消せることを知った時から5年間、または意思表示をした時から20年間のいずれか短い方になっています。

 

今回の事例への判断

今回の事例では、Aが事実ではない再開発が行われると思ったことから、95条1項二号の「その認識が真実に反する錯誤」に該当します。

 

また、再開発という錯誤がなければ、高額な費用を要するX土地を購入することはなかったでしょうから、1項の「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」に当たります。

 

しかし、再開発されれば地価が値上がりするとAが勝手に思い込んだだけであり、また再開発が本当かどうかについてもよく調査もせずに契約を結んだことに、重大な過失が認められます。

 

従って、安全で円滑な取引を優先させるため、BがAに錯誤のあることを認識していない限り、契約の取消しは認められない可能性が高くなります。

 

高額な買い物をする時は十分に内容を確認してから行うことが賢明です。お金借りるなら、尚更内容を確認することが重要になります。

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